ドルは上に往って来いの展開 強い米雇用統計も利上げペース縮小への期待は変わらず=NY為替概況

 きょうのNY為替市場でドルは上に往って来いの展開となった。朝方はこの日発表になった米雇用統計が予想以上に強い内容となったことでドル売りが強まった。一時133円台まで売りが加速していたドル円も136円付近まで反転する展開。しかし、ドル買いが落ち着くと、ドルは急速に戻り売りが強まっている。ドル円も134円台前半まで伸び悩んだ。

 ドル売りの明確な材料は見当たらないが、米雇用統計を受けて短期金融市場では、ターミナルレート(最終到達点)の織り込みは前日の5.00%以下から5.00ー5.25%水準に上昇させている。しかし、12月FOMCでの0.50%ポイント利上げまでは見方を変えておらず、75%程度の確率を維持している状況。

 来年にかけて米労働市場は悪化が確実視されている中で、この日の数字は労働市場の強さのピークを示しているとの声も聞かれる。米大手銀からは、来年に見込まれる失業者急増に備えるべきとの声も出ていた。

 なお、この日の米雇用統計については、非農業部門雇用者数(NFP)は26.3万人増と予想(20万人増)を上回ったほか、失業率も3.7%と前回と変わらずに歴史的な低水準が続いている。平均時給も前月比0.6%の上昇と予想(0.3%上昇)の2倍の上昇となった。インフレ抑制を目指すFRBにとって労働需要は依然としてタイトであることが示された。

 ドル円は一旦、134円台半ばに来ている200日線を回復していたが、その水準を再び下回る動きが出ており、下値警戒感はなお継続している状況。

 ユーロドルは米雇用統計を受けた下げを完全に取り戻す展開。米雇用統計後は売りが強まり、1.04ドル台前半まで下落していが、発表前の1.05ドル台に戻した。

 ただ、ユーロには依然として弱気な見方が多く、上値追いには限界があるとの指摘も少なくない。いまのところ市場はエネルギー危機を取り巻くリスクを無視しているという。ユーロ圏の景況感回復は欧州の温暖な気候の恩恵を受けたガス価格低下によるものであることは間違いない。ただ、ガス価格は1カ月ぶりの高値で取引されており、北欧の気温が今後、下がることが予想されるため、さらなる上昇も見込まれる。ユーロドルは、短期的に1.06ドルまで上昇する可能性があるが、ガス価格が大幅に上昇した場合、ユーロドルの上昇は持続不可能だという。

 ポンドドルも同様の展開。1.21ドル台半ばまで一時下落したものの、1.23ドル付近まで急速に上昇する展開。ただ、こちらもユーロ同様に上値に慎重な声が多い。ポンドドルは短期的に上昇を続ける可能性もあるが、長続きはしないという。9月にトラス前政権の財政拡大策が市場の混乱に火をつけて以降、ショート勢はポジションを減らしており、ショートカバーによる上昇余地は限られている。また、スナク政権が先月発表した緊縮予算もあり、英経済はさらに悪化が警戒されるとしている。

 英中銀の利上げ余地も限られているという。現在の3.00%から、来年の第1四半期までに4.00%まで金利を引き上げるのがせいぜいだと指摘。短期的に上値追いが続いたとしても、年明け頃には1.15ドル台に下落するリスクも留意されるという。

MINKABU PRESS編集部 野沢卓美